タニグチコウヨウ.blog

しょーもない一瞬一瞬を切り取っていきたい。

香港旅③~カジノで真剣勝負~

 煌びやかな空間で、客は狂ったように金を賭けていく…。
 
 マカオのカジノに行ってきた。香港からターボジェットで約1時間。到着後、南のタイパやマカオのシンボル、聖ポール天主堂跡にも行ったのだが、そちらは後日アップする動画で。
 今回はカジノの非日常すぎる体験を、ぜひ夢から醒めないうちに記録しておきたい。(カジノ内は撮影禁止なので、室内の写真は無し)
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 金の亡者タワー。
 グランド・リスボアホテルをはじめて目の当たりにしたときに僕の頭に浮かんだワードだ。僕がこれまで見たどの建物よりも、ゴージャスで、煌びやかで、妖しい光を放っていた。これまでカジノ営業で得た莫大な資金を元に造られたと思われる。
 中に入るとすぐ目の前がカジノの入口だった。ガードマンがいるだけで、特に荷物検査などはなく意外にすんなりと入ることができた。恐る恐る歩を進める。視界が開けると、あまりの広さと人の賑わいに尻込みする。いよいよカジノに来たんだ。
 ここにいる人は何を生業としている人だろう。いかにも金持ち、な身なりの人は少ない。金持ちが金持ちに見えないのが中華系の金持ちの特徴なのだろうか。ほとんど、いたって普通の観光客、それもアジア系の人が多い。そこまで高そうな服を着ているわけではない、タイ系や中華系の客が1000香港ドル(約14500円)をぽんぽんと、賭けていく。
 
 人気なのはやはりディーラー相手のテーブルゲーム。中でも特に賑わいを見せていたのは「大小」というゲームだ。大小は3個のサイコロを使う賭博で、客はその合計数を予想する、一種の丁半賭博である。合計数の中で4~10は小、11~17が大。小か大に賭けて当たれば2倍になって返ってくる。加えて、合計数をピンポイントで当てる賭け方や、3つの出目の内2つを当てる賭け方などもあり、そちらは当然倍率は高い。
 テーブルの向こう側にいるディーラーは、機械を使いサイコロを振る。その後、客が出目を予想し、自由にチップを賭ける。機械は黒い円筒に覆い被され、ディーラーからも客からも中は見えない。テーブルの端にはモニターが設置されており、「小小大小大大大小大小」のように過去10回分の結果が表示されている。客はこれを見ながら、「小が4回も続いているから、ここは流れに乗って小にしよう」「いや、そろそろ大がくるだろう」と各々予想するのである。ディーラーは客が十分に賭けたと判断すると、出目を開示する。それによって客は一喜一憂するのである。この1セットが約1分ほど。そのわずか1分の間に大金が動くこともある。
 
 やってみたい。しかし、テーブルの大小で賭けられる最低金額は最低でも200香港ドル(3000円)で、とても気軽に参加できるものではなかった。1000香港ドルのチップを次々と賭けていく客に圧倒される。僕はただただ初めて見る世界に対して、驚き、警戒し、茫然としていた。こんなにぽんぽんと金を賭けられるのは、楽しいだろうなとも思った。
 
 それでも何かやりたかった。せっかくマカオまで来てビビッてただ見るだけという選択肢は、頭の中にはなかった。テーブルゲームはどれもリスクが大きい。気軽に賭けられるものはないのだろうか。そう思いあたりを見渡すと、ひときわ目を引くものを発見。広いカジノの中央奥。一番目立つところ壁に立てかけてある見た目も派手なルーレット。見ると、最低25香港ドルから賭けられる。僕はこれに目をつけ、試しにやってみることにした。席は前と後ろの2列で全15席ほどある。僕は後ろの列の一番左の席に腰を下ろした。まずは数回分、観察する。隣には、眼鏡をかけた香港人らしきおじさんが座っていた。
 
 このルーレットは、一般的な玉がコロコロ転がって穴のどれかに落ちるというものとは少し違い、地面と垂直に設置された巨大なルーレットが回り、最も高いところにある針が止まったところにある数字が出目となる。マスは全部で52箇所で、1が24箇所、3が12箇所、6が8箇所、12が4箇所、25が2箇所で赤色と黒色の50が1箇所、大体こんな感じだったと思う。当てると賭けた金額に加え賭け金にマスの数字を掛けた金額が入ってくる。外すと賭け金は没収される。(当たり前かな?)
 制限時間内に賭ける金額と賭ける数字を決める。ルーレットを回すボタンを押し回転に強弱をつけられる役も、順番でやってくる。見るだけの「見(けん)」もできる。過去30回分ほどのデータも常時モニター上に更新され続けるので、大小と同じように参考にする。
 
 僕はまず最初に50香港ドル賭けてみようと思った。お金がない僕にとって、最初の賭けはあまりにも重要だ。これを当てるか外すかで長くカジノで遊んでられるかが決まるからだ。
 見を続けながら、ここ20回ほどは1の回数と並んで3が多いと感じていた。数回見送った後、次が3!直感でそう感じ、30香港ドルを急いで挿入。自分のタッチパネルの3を押す。ルーレットが勢いよく回転をはじめる。どきどき、どきどき。
 1,25,12,3,1,6,1…。カタ、カタ、カタ…カタ……カ…タ………。ルーレットの針が示したのは、3!3だ!!3を選んだお客様おめでとうございます、と言っているであろう広東語が、軽快な音楽とともにスピーカーから流れてきた。やった!たった3倍とはいえ、賭けた30ドルと30×3で90ドルが戻ってきて、僕のモニターに140香港ドルというお金が表示された!これであと全部外しても5回はゲームに参加できる。そんな単純なことが嬉しかった。
 
 その後も見を挟みながら賭け続け、数回負けたが、これまた一度神のお告げが聞こえてきて、6倍を当てたため、僕のモニターには一時265香港ドルが表示された。ここで勝ち逃げしても、3000円近くの勝ちとなる。ちょっと遊びに来ただけだし、十分な額ではないか。今考えるとそう思わなくもない。しかし、この時はこの席に座っている、ただそれだけで僕の気持ちは高揚していたので、離れることはできなかった。長く座っていると、お姉さんからメンバーズカードを作らないかと誘われ、無料だったので作ると、タダで水をくれたりして、ちょっとしたVIP気分を味わえた。グランド・リスボアは1泊数十万するホテルだが、ここカジノは僕みたいな一般人も楽しむことができるのだ。
 勝っている、お姉さん、タダの水、カジノのメンバーズカード、そしてカジノ独特の熱気、煌びやかな電飾…、僕をこの席から離さないには十分すぎる理由がそこにはあった。もっとも、こうした待遇や環境は全て、客にたくさん金を使ってもらうための布石なのだが…。
 
 一方、隣の香港人おじさん。最初にチラリとモニターを見たときは700香港ドルはあった。おじさんは恐らく賭博において最も一般的な賭け方であろう、安全なところとハイリターンのところのどちらにも賭けるというものだった。つまり、一度に1,3,50に賭けるのだ。こうすることにより、数回に一度は訪れる1,3を確実に当て、稀にくる50倍のときに25×50で1250ドルを一気に獲得することができる。堅実でいて、チャンスを逃さない戦方だ。ただ、この時は運が悪かった。12,25,12などと続くこともあり、50はおろか、1や3もなかなか出なかった。この間おじさんは毎回75ドルを失い続けていた計算になる。ルーレットが止まる度に舌打ちが聞こえる。仮に1万回回して統計を取ったら、3よりも12が多くでるなんてことはあり得ない。ただ、瞬間的にはこのように出にくい数字が連続で出るということもある。これがギャンブルの面白さであり、怖さでもある。マ、マジかよ…という展開が起こり得るのだ。
 僕はというと、この頃ずっと見をしていたから助かった…わけではなく、僕は僕でおじさんとは別の賭け方で苦しんでいた。
 
 僕は一度6倍を当てたことをいいことに、6倍に連続で賭け続けていた。6倍ヘビロテ作戦だ。6は確率的には6,7分の1で出るはずなので、外してもめげすに6に賭け続ければ得も損もしないだろう、という安直の極みのような作戦だった。少し頭もボーっとしてきていて、あまり考えていなかったのである。6ならその内くるだろうと。ここ10回も出ていないから、さすがにそろそろくるだろうと。僕は我慢を続けた。ようやく一度だけ出たが、6が本当に出ない出ない。その一度と細かい当たりがあっただけで、7連続くらいで負け続ける。僕のモニターの数字はどんどん減っていく。残り40香港ドル。最後のチャンスである。50香港ドルで30分以上は遊ばせてもらった。もう十分だ。これで外したら最後、ギャンブルから手を洗おうじゃないか。最後、最初に勝たせてもらった3に賭ける。おれには3しかない、おれのラッキーナンバーは3なんだと思ったりしてみる。そうこうしているうちにルーレットが止まる。針が指した数字は…6。ここで6かーーーい!
 悔しい。ここでやめようなどというさっきまでの思いは、既にあらぬ方向へ行っていた。この負けを取り返すべく、僕は財布から100ドル札を取り出し、様子を窺う。僕は集中していた。じっと勝負どころを待つ。
 数回見を重ねただろうか。ふと、どこからか声が聞こえる。”ここだ”という声が。神か仏か、あるいはあの平手打ちおばさんか、いやそれは絶対にない。とにかく、この時何かが僕の右脳に”12!たぶん12!”と訴えかけてきた。迷っている時間はない。12に25賭け!カタカタカタカタ。3,1,6,1…3……12。うおおおお!僕は思わずガッツポーズしていた。賭けていたのは25香港ドルだけだが、12倍の300香港ドル増やすことができた。香港おじさんの舌打ちなど、もはや気にならなかった。
 僕のモニターには最初の賭け金の残りの15香港ドルと合わせて415香港ドルが表示された。ここがやめ時だ。cash outのボタンを押し、$415と書かれたレシートを手に取り、席を立った。ルーレットはただの運任せなのだが、単純な僕はとても興奮していた。
 
 換金できる場所はどこかと係のおばさんに訊くと、地下だという。それに従い、近くのエスカレーターで降りていったのだが…。僕はここでまた信じられない光景を目にする。なんと地下もカジノだったのだ。1階だけでもかなりの広さを誇っていたのだが…。エスカレーター近くの換金所で、現金415香港ドルを受け取る。このお金を受け取る瞬間は嬉しい。ここから財布から出した150を引いた265香港ドル、4000円が僕の利益となった。
 その後、地下の大小に挑戦。これはディーラー相手ではなく、全て機械が相手のもので最低賭け金が10香港ドルとのことだったので、気軽に遊んでみることにした。大は小を兼ねるとも言う…とかブツブツ言いながら一人でやっていたら、10ドルが一時140ドルにまで増えていた。が、しかしその後調子に乗り、残額は0に。だが10ドルで20分近く遊ぶことができた。席を立ち、人の間を縫うように歩きながら、スロット、バカラなど様々な賭けが行われている現場を近くで観察する。しかし、どれもピンとこなかった。
 
 僕はグランド・リスボアを後にし、隣接するリスボアホテルに向かった。リスボアホテルにも当然カジノはあるのだが、カジノというより賭博場という響きが似合う、少し古めの建物だ。しかし、中に入ってみると綺麗に掃除されており、特にトイレは清潔に保たれていた。
 
 ここでもメインとなるのは大小、それからバカラ。最低賭け金が300香港ドルのテーブルが多かったため、ここでも僕はちまちまできるところを探していると、やはり機械相手の大小に足が向かった。この機械では20cm四方ほどの大きなサイコロが、透明な筒の中で、機械の底の部分が強く上に飛び出すと同時に「ボーン!ボーン!」という大きな音とともに振られる。その筒の周りを9席ほどが囲んでいる、ちょうどQさまのプレッシャースタディのような空間だ。
 その時は黒髪ロングのマカオ美女が一人だけ座っていた。俯いた表情は、どことなく壇蜜に似ている。僕も席に着く。もちろん壇蜜と目が合う位置に。底が飛び出すタイミングと強さを客が目の前のボタンを押すことでわずかに操作できるようだ。壇蜜は、飛び出す瞬間に毎回強く、しかし集中した様子でボタンを叩いていた。モニターを見ると、過去10回中6回、合計数の9を出していた。これは偶然か、それとも狙っているのか。狙っているとしたら、マカオの壇蜜、相当なやり手である。しかも、人気のあるディーラー相手ではなく、人気のない機械相手に一人寂しく立ち向かっているところにグッとくる。僕もその恩恵にあやかろうと9に賭け続ける。僕はボタンは押さず、すべて壇蜜任せ。完全なヒモ状態である。2回に1回は当たり、あっという間に100ドルが240ドルになる。壇蜜が「あなた、おいしいところ持っていくわね」と、ジャパンから来たヒモに目で語りかけてくる。言葉は交わさないが、幸せな時間だった。
 しかし、である。そこに酔っ払いのおっちゃん3人組とおばはん2人がどかどかと入ってきて、壇蜜との密会は突如として終わりを迎えた。挙句の果てに、おっちゃんたちがばんばんと何の考えもなしにボタンを押すから、タイミングがずれて9が全く出なくなった。せっかくルーレットで勝ったお金を無駄にはしたくなかった。僕は180ドルとなったところで「短い間だったけど、ヒモでいさせてくれてありがとう」と壇蜜に目で伝え、席を立った。壇蜜の表情は変わらず、その目は既に次の勝負へと向かっていた。
 
 その後、ウィンホテルの想像を絶するカジノの広さ(野球のグラウンドくらい)に興奮し、スターホテルのカジノでは様々な賭け方、表情、振る舞いを観察した。負けてディーラーに大きな声を出して立ち去っていく者。ドーンと賭けて、ドーンと負けて、でも全く気にしていない様子で他のテーブルに向かう者。死んだ魚の目で賭け続けている者。カジノには色んな人種がいて、光と闇を同時に見たような気がした。
 結局340香港ドル、5000円勝つことができた。合計で6時間ほどいたので、時給換算すると850円ほどか。ありがたく旅費に使わせていただくことにする。妖しく光を放ち続けるカジノ街を背に、深夜の便で香港に戻った。

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 これまで競馬もパチンコもやったことのない僕が、どうしてカジノに行ったのかと聞かれれば、それは沢木耕太郎さんの影響だと答える。僕が香港に来たのは、お世話になった大学の先輩に会うため、日本の花粉から逃げるためという理由もあるが、ほんの気まぐれという面も大きい。でも、気まぐれであれ、なぜ行き先に香港を選んだかというと、それは沢木耕太郎さんの『深夜特急』を昨年末に読んだからだ。この本は文庫本版で全6巻あり、沢木さんが26歳の時、1973年頃の旅を綴った紀行文である。その内第1巻が香港、マカオ編となっていて、実際にナイトマーケットやカジノに行った体験が記されている。Amazonのレビューを読んでもらえれば分かる通り、読むとたちまち海外に飛び出したくなる、まさに”麻薬”のような本。
 発刊から20年以上経った今でも、日本人バックパッカーのバイブルとして、根強い人気があるそうで、旅人のブログなんかを読んでいると、たびたび登場する。沢木さんの繊細な感性、無謀な挑戦、詳細な記述、独特な文体。僕も虜になった一人だ。この本がなかったら、このタイミングで香港に行こうとは思わなかっただろう。 読んだあとの責任は負えないが、まだ手に取っていない人はぜひ読んでみてほしい。
 
(賭博を)やめて帰ろうという判断は確かに賢明だ。しかし、その賢明さにいったいどんな意味があるというのだろう。
~中略~
やろう、とことん、飽きるか、金がなくなるまで…
深夜特急1 香港・マカオ』より
 
 今、この本を読み返している。「もう一度マカオに行こう。行かなくては。何カジノを分かった気になっているんだ」という気持ちにさせられてしまうのだが…。
 その気持ちをグッと押し殺し、僕は明日、東京に帰る。