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タニグチコウヨウ.blog

しょーもない一瞬一瞬を切り取っていきたい。

回鍋肉事件

我らが明治大学の学生食堂(以下学食)には本当にお世話になっている。
ほとんどのおばちゃんに顔を覚えてもらっていると勝手に勘違いしてしまうほどお世話になっている。
 
大学の近くに一人暮らしをしている身からすると学食ほどありがたいものはない。なんせたった400円ほどで、美味しく、ボリュームがあり、栄養豊富な一食にありつけるのだ。
しばしば息子の食の心配をしてくれる母親も「今夜は学食で食べたよ」とLINEするだけで、安堵の表情のお買い物パンダのスタンプを送ってくれるほどである。
 
そんな偉大な学食のラストオーダーは19時である。
僕はしばしば18時50分ごろまで大学の図書館に居座り、ラストオーダーぎりぎりを狙って学食にヘッドスライディングしている。わざわざぎりぎりを狙うのは、早めに夕食を済ませてしまうと深夜にお腹がすいてしまうというシンプルでいかにもビンボー者らしい理由のためである。
 
それ自体は大変結構なことであるが、ぎりぎりを狙うと問題も出てくる。
そう、ラスト一食を巡る攻防が待っているのだ。
 
その時間に行くと明大カレーと醤油ラーメンはだいたいいつも残っているのだが、定食メニューは一品、二品残っていればいい方。あとは全て完売しているのである。その残り一品を巡り、僕は何回も慣れない辛酸を舐めてきた。
 
本日残っていたのは、明大カレー、醤油ラーメン、そして一回も食べたことのない回鍋肉定食の3品だった。
学食に入り、サンプルが入ったボックスに視線を移し、現時点で3品からしか選べないということを知るやいなや、一刻も早く注文をするためにカウンターへと急ぐ。なんとしても回鍋肉定食が食べたい。もちろんカレーやラーメンもとても美味しいのだが、いつでも食べられる、モロ炭水化物だからこれ以上太りたくないという2点の理由により、却下である。はじめての回鍋肉が食べたすぎる。
 
最後の一品を巡る攻防の結末は2パターンある。
一つは、僕の前にメニューを注文した学生で完売となり、僕がタッチの差で食べられないというパターンA。
もう一つは、僕が本日最後のメニューを注文し売り切れることにより、直後に滑り込んできた学生が食べられなくなるのを目の前で見てしまうというパターンB。
僕は大変繊細な心の持ち主なので、パターンAはもちろん、パターンBであっても、食欲は失せずとも、胸は痛くなる。自分だけ食べられてラッキー、などとは1ミリも思わない。
 
いつものようにどきどきしながら自分の順番が来るのを待つ。
先に注文を済ませていた男子学生が回鍋肉定食を受け取る。次は僕の番だ。祈るような気持ちで回鍋肉定食を注文。頷くおばちゃん。よし、まだ残ってた。パターンAは回避だ。
 
注文を受けたおばちゃんはごはんと味噌汁を器に盛り、鍋からおたまで回鍋肉をすくいだす。しかし、どうも様子がおかしい。必死に鍋の隅っこからかき集めている。
嫌な予感がする。かき集められた回鍋肉を皿に盛り、僕に差し出す。それを受け取り、会計を済ませるためにレジに向かおうとしたときだった。2人組の男子学生が滑り込んできたのだ。 時計の針は18時59分を指していた。
そのうちの一人の口から出た言葉は案の定、
「回鍋肉定食ください」
だった。
真横で聞いてしまった。パターンBだ。なんともいえない罪悪感でいっぱいになる。彼らは僕が回鍋肉定食を受け取るのを見ていた。あっじゃあカレーで、という半泣きの声もかすかに聞こえてきた。背中に矢のような視線を浴びながら僕はレジへと向かった。
 
どんよりとした気持ちでお金を払い、コップに水を注ぎ、箸を取り、適当な席につく。
さて、いただきます!回鍋肉を食べられなかった彼の分まで、全力でいただきます!
…が、食べはじめて一口で気づいてしまった。
 
回鍋肉は僕の口に合わないということを!まさかのパターンB+である。
 
二重の申し訳なさから生まれたこの文章を、目の前で回鍋肉を奪われた彼と作ってくれた学食のおばちゃんたちに捧げたい。

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